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小説置き場

お題 バツクラで「クラウド、俺の寝顔見ただろ」上

バッツは最近気になる事がある。
その一、この生き物一匹いない世界で、なんと動物を発見してしまったのだ。
そのニ、なんとなんとその動物は、ふさふさのしっぽと立派な毛皮の灰色狼だった。
その三、なんとなんとなんと、そいつは何故かバッツにしか見えない変な幽霊狼だった。
その四、それから時々子供の走り回る足音が聞こえて…
と、まあ沢山種類があるが、まとめて言えば、ずばり気になるのはクラウドの事だ。
事の発端は“ものまね”からはじまった。調和の神コスモスと混沌の神カオスが争うこの世界で、バッツとクラウドの二人はコスモスの戦士の一員として名を連ねていた。
でも、ただそれだけの事だ。コスモスの戦士は12人で、初めて全員が顔を合わせた時、クリスタルを探せとコスモスに告げられてみんな最初は独自に行動していた。
それからすれ違いと合流があって、戦士達は自然と小さなグループ分かれて行った。クリスタルは独自に求めよ、というのがコスモスの言葉だったが、集まった方が敵に襲われた時も連携がとれるし、便利だったからだ。
結局戦士達は、所謂パーティーの様なものを構成して協力し合いながら探索をするようになった。どうせ帰る所は同じ聖域なのだし、まあこういう事になるだろうな、とバッツは薄々予測していた。
バッツは、同じ戦士で年下の、スコールとジタンと一緒にパーティを組んだ。結局戦う時はほぼ一人だが、仲間が増えれば旅は楽しいし、三人ってなんだか懐かしい感じがして気に入っていた。
件のクラウドは、別の戦士達と行動している様子だった。セシル、ティーダ、フリオニールだ。この四人パーティーとはすれ違いがあまりなく、クラウドに至っては途中で離脱してしまった様子で、別の場所に一人でいたり
ティナ、とオニオンナイトという一番年少と思われる二人と行動しているのもちらりと見かけた。だけど、駐屯地の聖域で集まる時以外、接触した事はあまりない。
仲間だけれど、ちょっと疎遠な感じだった。仲間だけど、少し遠い存在だ。彼自身がこちらの戦士達を仲間と思っているかも、バッツは少し疑問だった。
みんなのまとめ役である、ウォーリアーオブライトが参謀代わりに呼べは、クラウドは素直にそちらへ行って意見を述べる。彼はスコールやティーダと同じくらい幼く見えるが、ああ見えて仲間内では年長の部類なのだ。
バッツはクラウドに年を聞いた事は無いが、何となく、同い年か、一つ二つずれたくらいの年の差だと思う。多分当たっているだろう。元居た世界で長年各地を放浪した経験の賜物だ。
皆、元いた世界の記憶を失ってはいるが、知識は脳内に残されている。だからわかるのだ。クラウドは軍役の経験もあるらしい。ライトもクラウドの意見を取り入れたり、時にはセシルを交えて三人で議論したりする。
その間バッツは他の年少の戦士と遊んでいる。遊んでいるというか、まあその通りなのだが、常に戦いに身を晒されている彼らの精神状態や、緊張をほぐしてやるのは、反場暗黙の了解でバッツの役目だった。
年少の彼らはコスモスに選ばれた戦士といえど、まだ子供なのだ。ティーダはカオス側に酷く対抗心を擽られる男…多分父親…がいる様子だし、ジタンもそうだ。飄々としているがカオス側にいる“兄”の身を案じているみたいだ。
フリオニールは常に何かしらの焦燥感を抱いて、頑張ろう頑張ろうといつも肩を張っている様子だし、ティナは自分の気持ちが自分で読めず、どう力を使ったらいいかわからない。オニオンナイトはがむしゃらにティナを守ろうとして、空回りしている印象を受ける。スコールは、クールな所がクラウドにちょっと似ていると思う。でもクラウドと違うのは、一人になりたがるが、本当は心で他人に向かって沢山沢山しゃべっている所だ。
スコールには納得できなければ拒否をする強固な所がある。クラウドもそういうものを持ち合わせているようだが、何だか少し妙だった。「冷静で現実的に判断を下す牽制役」と皆クラウドを評するが、バッツがふっと目をやると、彼の両足が宙に浮いてるみたいに感じる。刈り込んだ金髪の後ろ髪の下から見える首筋は触れたら脆く崩れそうに白々としていて、何だか風景に溶けそうで、背中から向こう側が透けて見えそうだ。
時々、彼は何処にも居ないのではないかと思う。ふわふわしていて、おぼつかない一面がある。そうかと思えば冷徹な雰囲気になったり、何故かは解らないが、急にぐっと子供染みた感じの印象になる事もある。
つまり掴み所がないのだ。セシルにもそう言う所があるが、クラウドよりセシルの方が随分と“食えない”感じがして解りやすい。
クラウドは、何と言うか、色んな種類の珠がついた首飾りみたいだ。別々のものが数珠繋ぎになっていて、その中の一つが急に弾かれて、音を立てて飛び上がる。
糸が浮き、その時々で“首飾り”の様相は微妙だか確かに変わる。発する音は彼の声だ。今はまだ聞き取れないが、何か互いに囁きあっている風にも思える。子供の声、大人の声、青年の声、他にも沢山。でもそれらはしっかり離れずに、混合してクラウドという一人の男を形成している。
バッツ自身も変な例えだと思うが、バッツがクラウドを観察して得たのはそういう感覚だった。感覚は大切だ。思わぬ所で現実の事実と合致したりする。だからバッツは、おおむね自分の感覚を信用していた。
疎遠なクラウドに、バッツが声をかけたのはそのせいでもあった。皆で卓を囲んでとった夕食の後、バッツは鍛錬も兼ねて一人一人の技を“ものまね”させてもらう事にしていた。
“ものまね”はバッツの得意技の一つだった。寸分違わず他人の技をトレースして、自分のものにし、組み合わせ自在に操る。元の世界ではもっと別の戦い方もしていた気がするが、この世界でのバッツの主な戦法はそれだった。
「クラウド」
バッツが声をかけると、クラウドは食器を持ったまま顔を上げた。今日の片付け当番はティナとクラウドで、丁度最後の一枚を片付け終わった所だったのだ。
クラウドは最後の食器を仕舞うと、ティナと二言三言会話して、それから互いに別れた。クラウドが柔らかい動作で緩く手を一回振ると、ティナがちょっと微笑んで、天幕の方へ戻っていく。
ティナが天幕へ入ったのを確認すると、クラウドはバッツを振り返った。さっきの穏やかな感じがまだ少し残っている。彼はその表情のまま、バッツに聞き返した。
「“ものまね”か」
バッツがニ、三度瞬きする。なんだ、言おうとしてた事ばれてたか。クラウドは嫌がると思ってばかりいたが、別にそれほど嫌悪の雰囲気は感じられない。
「いつ来るか待ってたからな」
「ん?」
みんなの天幕がはってある聖域から少し外れて、戦いやすい荒野へ移動しながら、クラウドがぽつりと言ったので、バッツは耳を傾けて返事をした。
「俺が最後だしな、アンタが“ものまね”してないの」
「あー」
そう言えばそうだった。とバッツは間延びした返事をした。仲間を一人一人つかまえて習得するバッツの“ものまね”巡業紀行は、一応ぐるりと円を描いて既に8人済んでおり、クラウドが終点で終わりだった。
「待っててくれたのか?」
「うん」
クラウドが急に子供っぽい受け答えをしたので、バッツはちょっと嬉しくなって頬を緩ませた。クラウドがバッツの隣を歩きながら続けて言った。
「9人全員の技を揃えておけば、誰かに何かあった時、代わりに対応が効くからな。バッツの戦闘の癖も少なくなって、これでイミテーションを倒す能率が全体的に上がると思う」
「あ、そうなの」
なんだ、とバッツは肩をすくめた。別にバッツの為だけに待っていた訳ではないのだ。ちょっと残念…ではあるが、いやいや、このクラウドという男は仲間に興味ないのかと疑っていたが、実際、合理的に仲間思いなのかもしれない、徹底した平等主義は、さすが軍人と言うべきだろう。しかし、誰でも平等に好きというのは、少し淋しくないだろうか。クラウドの基準は未だに良くわからない。ひょっとしたら彼自身、それを探しているのかもしれない。
(もし、って憶測して考えてみたら、大切で手放せない仲間がいるって時、クラウドなら必死でそいつの為に行動すると思うんだけどな)
ただ今、その人物がいないから、彼はどこか浮いて幽界を彷徨っているように見えるのだ。
そんな気がした。
クラウドは、戦う事が好きじゃないのかも知れない。いや、戦う事に疲れているみたいにみえる。だから意味がいる。戦う意義がいる。
意味とか意義とか、考えても仕方が無いので、バッツもつとめて思わぬようにしているが、突然別々の世界から強制的に連れて来られ、記憶まで取り上げられて劣勢状態で戦えとは、召喚した神の言い分でもまったくアンフェアだ。この切迫した状況で、どうして?なぜ?意味は?とか、疑問は害にしかならないとしても、誰一人として神の言葉を疑わず、受動的に信じきってよいものだろうか。それこそ神様のチェス駒だ。そんなの全然自由じゃない。口には出さないが、バッツも時折思う。でもクラウドは違うのだ。クラウドはただこの戦いをあてどなく続ける事に納得がいかないのだ。そして戦う理由も失っている。
確証はある。クラウドの雰囲気は何か大切なものを失って、人生の目的を喪失した人に酷似していたからだ。そういう人をバッツは知っている。多分、元の世界で見た事があるのだと思う。
(というか、無自覚天然で「待ってた」とかいうんだなあ)
なんだかクラウドってやっぱり不思議な奴だ。今肩が触れ合いそうな程近くにいるが、あんまり接近して見ると、長い金の睫毛や繊細な鼻梁や、ぽっちりした口元は、ともすれば女の子みたいに見える。
こりゃあ若い頃は随分苦労したんだろうなあ、こんな場面で素直すぎる物言いしたら変に期待されて危険だよ、と心の中でひとりごちながら、バッツは薄目になって眉を上げた。
暫く二人で歩いて、バッツがゆっくり立ち止まった。クラウドも横でぴったり止まる。横顔がバッツを見つめていた。バッツは親指を立てて顎をしゃくると、にっと笑ってクラウドに問いかけた。
「この辺でする?」
クラウドが無言で頷く。少しだけ雰囲気に緊張感が走って、クラウドがバッツから離れて行く。随分離れてから、彼は背負った大剣を手にとって、片手に携えた。剣先はまだバッツの方を向いていない。
どうしたのかと首を伸ばして待っていると、クラウドは片手で剣を持ったまま、開いた方の片手を口元にもって行き頬の横に当てると、ちょっとブーツのかかとを上げてバッツに向かって声を張り上げた。
「行くぞっ」
大声になって、少し擦れたクラウドの声が、手のひらを拡声器代わりに反響してバッツに届く。バッツは思わず歯を見せて笑みを零した。クラウドって、妙に可愛い仕草をする。子供の様な相貌も相まって、その仕草がぴったり合ってしまう。これも無自覚なのだろうか。
(だったら相当タラシだなあ)
バッツが自前の武器であるブレイブブレイドを片手に出現させて握り締めた。この世界では、自分の武器は念じるだけで自身の手の中に現われる。クラウドもしまっておけば良いのに、さっきまで背負って歩いていた。全然重くなさそうだった所がまたおかしい。
クラウドが両手で大剣を握り締めてバッツに構える。息を吐いて、金髪の下の瞳が眇められるのが見えた。バッツも腰を落として剣を向ける。と言っても彼がとらなければならない事は、“ものまね元の技を受けて覚える”事だった。今回剣はあくまで防御と往なして回避する用途だ。
(あれ?)
“首飾り”が揺れている感じがする。クラウドがいっそう腰を深く落とし、地を蹴り上げた。跳躍を応用した突き技だ。バッツの方を向いた切っ先が、寸分のぶれなく真っ直ぐに飛び込んでくる。
「だっッ!」
ブレイブブレイドの赤い剣身が大剣の下へ滑り、寸での所で突きを剃らす。だがすぐに体勢を立て直したクラウドが間髪を入れずにバッツ目掛けて矢の様に剣を穿って行った。力任せの早業で、無茶苦茶な猛攻だ。一投目は剃らせたが、ニ度目と三度目は剣で自身を防御するしか余裕が無かった。剣と剣がかちあい火花が散る。大剣の重量が剣を伝わってバッツの両腕を振るわせた。
でもこれで技前の大方の所作は、わかった。あんまり素直で単純で直接的だったからだ。でも、この技はなんだかクラウドっぽくない、荒っぽい技だ。
(こんな戦い方する奴じゃないって思ってたけどッ)
クラウドが剣先を下げた。また地を蹴ってその反動を使い剣を縦一文字に切り上げる。バッツは身を仰け反らせてそれをかわした。頤に刃風が飛び、頬の横が切れる。振り切った大剣が光を遮って、陰になる。クラウドの表情は伺い知れない。視界の先で、黒い髪が揺れた。
(えっ)
つんつんした黒髪が剣の向こうを掠める。クラウドの身体にぶれて、虚像になってその男が重なって見える。クラウドより長い髪、クラウドより大きな体躯だ。脳天を目掛けて大剣が振り下ろされ、バッツは慌てて自分を守るように剣を構えなおした。
大剣の先に押された剣ごと自分の身体が吹き飛ばされて、バッツは両足を地面に強く擦り付けたまま滑るように後退した。バランスを崩しそうになって体がよろめく。
「うわっち!」
バッツは破顔しながら顔をあげた。視線の先に見えたのはいつもの金髪だ。クラウドだった。あの幻の様な黒髪の男は消えていた。
(なんだったんださっきの)
今までの“ものまね”ではこんな事は起こらなかった。バッツはかぶりをふって口の端を上げた。何にせよ楽しい。久方ぶりにゾクゾクとした高揚感を感じてクラウドに向かって走り出す。
クラウドはまた跳躍して飛び上がり、大剣を逆手に持って振り下ろす。バッツの目がキラリと光って、細い剣が赤い閃光の様に舞った。左腕に衝撃が走る。大剣が地面を穿ち、刃風に切り裂かれてバッツの腕にぱっくりと傷が開いた。その傷を見て、クラウドが一瞬怯んで身を引く。その瞬間を逃さずに、バッツの剣先がクラウドの喉元を捉えた。
「とったあぁ!」
バッツが満面の笑みで叫ぶ。赤い剣先は、クラウドの喉元寸前で止まっていた。
「…ッ…!」
「あは、ラーニング、完了」
バッツが剣を振るって自分の腰下へ下げる。それは仕舞われる様に光の粒になって消えた。クラウドは暫くじっと身動きせずバッツを見つめていたが、ややあって地面から大剣を引き抜くと、溜息をついて頭をたれたまま上目遣いにバッツを見た。
「…ものまねするのに抗戦っ気すなよ」
「はは、ごめん!すっごく楽しくてさあ」
クラウドは持っていた大剣を仕舞うと、バッツに駆け寄って腕を取った。ポケットから青い小瓶を出し、栓を抜いて腕に振り掛ける。ポーションだ。
「ん?」
「腕を切っちゃったじゃないか!」
「んん~?」
バッツが首をかしげてクラウドを見つめた。傷がすっと癒えていく。相当深くやられたから、多分内部が治るまでちょっと時間を要するだろう。まあそれも別にいいとバッツは思った。“ものまね”はきっちりしたし、クラウドの技はもうバッツのものだ。
「すまない」
クラウドは治った傷口をすまなさそうに一瞥すると、手袋を片方外して、素手でポーションの内液を手にとると、指を伸ばしてバッツの頬の傷を撫ぜた。さっきまで半分本気で急所を狙われていたのに、すぐ何の躊躇も無くこうやって駆け寄ってくる。全然戦士らしくない。その時バッツは気がついた。
そういう奴なのだクラウドは。気を許したら、寸前まで殺気を向けられていても、相手の傷を心配する様な奴。
「クラウド」
呼びかけに答えてクラウドがバッツと目を合わせた。瞳が揺れて、バッツの姿が映りこんでいる。バッツは何だか本当に楽しくなって、腕を上げて頬にあてがわれているクラウドの指を握り締めた。お互いの指を絡めたまま、バッツの腕がクラウドの腰に伸びて、自身に抱き寄せる。
一瞬、クラウドが咄嗟に目を瞑るのが見える。バッツは少し屈んで、微笑みながらクラウドの唇にキスをした。
「!」
クラウドが驚いて目を見張る。ちゅっと音がして、すぐバッツの唇がクラウドの唇から離れた。クラウドの顔がかっと赤くなる。目が泳いで、腕がへんな動きで何順か彷徨った後、ようやくバッツの腕を自分の身体から引き剥がして、口元を押さえてあとじさった。
「…なにするんだよ」
「キスしちゃったんだよ」
クラウドは何ともいえない妙な顔をして、何かもごもご言おうとしている様だったが、やがて諦めて、ぽつりとつぶやいた。
「わけがわからない」
「俺もわかんない」
バッツがオウム返しにそう言うので、今度はクラウドが首を傾げる番だった。肩をすくめて首を振る。お手上げのポーズだろう。キスの事はとりあえず横に置いておくことにしたらしい。
「出来たのか、ものまね」
取り繕うようにクラウドが尋ねる。バッツはウインクして、動く方の片腕を上げると、そこへ大剣を生じさせた。ずっしりとした重さが圧し掛かってくるが、ものまねの状態なら扱えるのだから便利なものだ。
「バスターソード、だろこれ。で、さっきの技が、クライムハザード」
「…良く出来ました」
「わーい」
バッツは子供の様に声を上げて、クラウドにもたれ掛かった。じゃれ付くバッツにまた困惑したクラウドが身を捩って眉根を寄せる。
それでもバッツが離れないので、クラウドは根負けして聖域へ戻る為歩き出した。
「あんた…きっと戦闘で興奮してるんだ、帰るぞ」
「うーん、一理ある。してるかも」
「してるのかよ。帰るぞ」
「ああー腕が痛くて歩けない~」
「それってすごく非論理的だ…」
また並んで歩きながら、二人は聖域へ帰っていった。何だか悠然と帰り着いてしまったが、帰等した時のライトの大目玉ったらなかった。彼は怒鳴りこそすらしなかったが、
曰く、“ものまね”習得は重要な事だが、今までバッツがこんなに深手を負って帰って来た事はない。傷つく事を恐れてはならないと言ったが、余計な事で自分から傷つかないでよろしい。
技を覚える前に身体を壊してしまってどうするのか。我ら10人一人も欠けていてはならないのだ。欠番休養となれば迅速な治療が必要である。というようなお小言がタップリ二人を待っていた。
「面目次第もない…つい俺も本気を出してな…まさか腕が上がらないくらい切れるとは…」
バッツと一緒に正座させられたクラウドが、すまなさそうに言った。
ライトは仲間割れなぞないと戦士達を信じているが、みんな暴走しやすいのもまた認めている。その抑止力だったクラウドがこういう有様なので、心配しているのだろう。
もしかして、不器用にしかものの言えない父親ってこんな感じかな、とクラウドは思った。というより軍の上官に似ている。とびっきり優しいが。
そんな事を思っていると、クラウドの腕を肘でこづいてバッツがひそひそ耳打ちした。親父みたいだなライトは。などというから、また小言が増えた。
「帰りが遅いのでみな心配していた。バッツは腕3日は使わぬようにし早急に治すのだ。クラウドは治るまで付き添う事。以上だ」
大反省会が終わり、クラウドは立ち上がって下がろうとしたが、バッツの叫び声に阻まれた。どうやら正座をした事があまりない様で、足が痺れてしまったらしい。
「ああもうなんだってこんなことに…」
「ううう、オルトロスの電撃より効くぜこれは…!」
バッツを引っ張りながら、クラウドが天幕へ入っていく。ライトはそれをこっそり見送っていた。
元々クラウドは、自分を抑えてやらねばと思いこんだ事に従事してしまう傾向があり、単独行動が多くなっていた。ライトは、彼には仲間の前に友人が必要だと思っていた。怪我の巧妙であったが、バッツと接近しこのように打ち解けられたのは良い事だ。
あんなに小言を言ったが、我々はコスモスの戦士、よほどの怪我でも直ぐに治ってしまう。バッツの腕の傷も例外ではない。付き添うというペナルティは、クラウドにはよい灸に、いや悩みを払拭させる手立てになるかもしれなかった。
バッツの足が天幕の中へ消えた。ライトはうむと一つ頷いて、自分も天幕の中へ戻っていった。
下に続く
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