ぎゃっと叫び声がして、クラウドは振り引いたナイフを逆手に持ち変えた。
目の前に、腕を押さえて血を流している男がいる。クラウドが切りつけたのだ。大腿を切ってやろうとしたが庇われて反らされた。それでも男があとじさったので、軍支給のナイフを護身用に持ち歩いていて良かった。とクラウドは息をついた。
男は怒りの形相でクラウドを睨み付けた。クラウドはなるべく目をそらさない様に男の背後を一瞥した。後ろに三人、まだいる。顔は見知っていないが彼らはクラウドが所属する神羅軍の兵士達だった。
服装からして上等兵だろう。体格の差もあって勝てるとは最初から思わなかったが、ひょっとすると逃げられないかもしれない。一人ならまだしも複数の相手だ。
今クラウドは武器庫の中に追い詰められていた。ここまで長い事追いかけられて、とうとう進退窮まってどん詰まりのこんな場所に入りこんでしまったのだ。
クラウドは、すばしっこい。自慢じゃないが新兵の中でも一番良く走る。でも、今壁を背にして、四人を相手に抜け出し、もう一度逃げるのはちょっと難しそうだった。
「てめえ…!」
腕を切られた男が唸りながら声を上げる。口の端にかすかに泡を吹いており興奮しきったそのこめかみには青筋が浮いていた。
(やばい)
腰を落として再度身構えようと思う間も無く、男が猛然とクラウドに突進した。力任せに肩で鳩尾を突かれ、指先からナイフが滑り落ちる。
クラウドは叫び声もあげられず背後の土嚢に叩きつけられた。すぐに胸倉を掴まれ、吊り上げられる。空気を求めて気道から咳が何度か洩れた。男が荒い息を吐きながら唾を飛ばしてクラウドに怒鳴り散らした。
「繁殖用のクズ人種の癖によぉ!!」
「…ッ…」
抗議しようとして、クラウドは再び地面に叩きつけられた。衝撃から身を守ろうと丸まった背と手足を無理やり掴んで、男達がクラウドを上向かせる。
暗い武器庫の中で、ギラギラした男達の目だけが異様に熱を帯びて浮かび上がって見える。下半身の中心は布越しでもわかる程勃起していた。
「こいつさあ、本当に“オメガ”なのか?」
「わかんねえけど、やべえだろ。この匂い、俺やりたくて仕方ねえ」
頭上から蒼白になりそうな会話がふってくる。クラウドはかぶりをふって手足をばたつかせたが、がっしりと押さえ込まれたそれらはビクともしない。
この期に及んでも弱い自分が憎かった。ソルジャーになりたくてその一心で村を飛び出した。努力できる自信はあった。ソルジャーになるまで、どんな苦しみがあろうがも耐えようと思っていた。
けれど人生は安直に村を飛び出した様には行かないのだ。広い世界には小さな村よりもっと複雑な仕組みがあって、その一端が性別のカーストだった。
上位種のアルファ、一般種のベータ、そして希少種の…オメガ。人間に男女だけでなくこういった曖昧な性差がある事をクラウドはおぼろげにしか解っていなかった。少なくとも村を出るまでは。
堂々と人に聞くものでもなかったし、母もやんわりとしか話してはくれていなかった。まだ未分化な子供だからと、検査もおざなりだったのだ。自分がアルファだとは思わなかったが、ベータであろうと高をくくっいて、
このまま順当な人生が送れると思っていたのだ。それがオメガだなんて!オメガ、オメガ人種。新兵に実施される甲乙の身体検査でクラウドは初めてその事実を知った。それまではあまり気にも留めて居なかったが、
自分の事となれば話は違う。表面上はみんな男女で人と人を分けているが、でもひとたび三つの性別がどれだかばれてしまったら大変だ。オメガ人種は最低のカーストだ。それは彼らが男でも妊娠でき、人間であっても発情期を持つ事に起因する。
彼らは三ヶ月に一度発情期をむかえ、その間は繁殖の事しか考えられなくなる。期間はまちまちだが、その間彼らは別種の人間の性的衝動を駆り立て、誘蛾灯の様に寄せる強烈なフェロモンを出すのだ。つまりそのため、それ相応の…性に関する職についている者が必然的に多く、オメガは、水面下では繁殖用の人種であると看做されているのだ。
クラウドは自分がそうなるなんて信じられなかった。まだただの一度も発情期を体験していなかったし、とにかく発情抑制剤を飲んで、軍の任務にあたるしかなかった。酷く体がだるくなる代物だったが、ドクターは薬を出すだけで、他に相談できる相手もいなかった。一人を除いては。
親友のザックスだ。しかしオメガと告げたら、彼は自分を蔑むかもしれない。彼はそんなくだらない差別心を持つ男ではなかったが、もし拒絶されたらと思うと、言い出せなかったのだ。
そのまま最初の「発情期」なるものをむかえて、普通に…とまでは行かなかったが、なんとかこなして来れた。誰彼構わず絡まれる事が多くなったが、クラウドは勤めてやり過ごす様に、それらを往なしてきた。
だけどここまで追い掛け回されるなんて想定外だ。集団に囲まれ、逃げたした時刻は夕刻だ。もう武器庫の外は日が落ちてしまったかもしれない。
(抑制剤、効いてるはずなのに…)
クラウドはぼんやりと考えた。朝兵舎の隅で隠れて飲んで、昼は…解らない。兵士達の昼は忙しいのだ。特に新兵ともなると、戦場を想定して飯を掻き込んですぐ食事を済ませる訓練もかねていて、矢の様に過ぎる。
終戦後、軍の意義は反神羅ゲリラや暴動やモンスター鎮圧が主体になったが、食事だのそういう所はまだ戦前の所作を引きずっていた。忙しすぎて飲み忘れたかも知れない。抑制剤は兎に角効き目が薄いのだ。
効果はかなりの頻度で服薬しなければ持続しない。そしてうっかり飲み忘れた者にやってくるのは…興奮した乱暴な指先が、クラウドの上着に手を掛けジッパーを引きおろした。
まどろっこしかったのか、その下のシャツがひっぱられて引き裂かれる。別の手が下穿きを性急にずり下ろす。あらわになった下腹部にすぐ指が這わされた。
「…!やめ…!」
大腿の間に指を近づけられて、クラウドは初めて声を上げた。嫌だ、嫌だ。
発情?それがなんだ。オメガ種は発情期になると自身も性的衝動が強くなる。クラウドもそれは認めていた。
処理するのに苦労したものだった。それでも今は嫌悪感の方が勝る。秘部の中に男の指が差し入れられて、クラウドはぞっとして今度こそ金切り声で拒絶の叫び声を上げた。
「やああ!離せ!離せ離せ!触るなッ!」
「おーおーやっと喋った。その調子で鳴いてくれよぉ」
「離せよ!それ以上やったらお前ら全員殺して…!」
ぐっとクラウドの口に布が押し当てられ、口腔に詰め込まれる。男達の忍び笑いがして、大腿の間を弄る速度が速くなった。
「ぴいぴい叫ぶなって、すぐお前もヨくなんだから」
そういいながら、男の一人が自身を取り出してクラウドの頬に擦り付けた。むっとする臭いに目が回りそうになって、クラウドはぎゅっと目を瞑った。
視界を遮断すると、なおさら腹の下に意識が集中する。粘っこい水音と肉を擦る指の動きにあてられて、腰が浮き体が熱くなる。逃げ回って体に浮いていた汗の感じが変わり、思考がどろりと溶けかかった。
「すっげ、もうぐちょぐちょじゃん。女みたいになるって本当だったんだな」
「て事はマジモンの“オメガ”?あかんぼ生めるとこがあんだろこの奥に」
「知らね」
「試してみようぜ、なあ、クラウドちゃんも早く突っ込んで欲しいだろお?」
下卑た笑い声を立てながら、秘部を弄っていた男が自分のズボンをくつろげた。中から出てきたそれは既に真っ赤に充血している。
「孕ましてやっからなぁ俺達が」
「んん…んっ…!んーっ!」
閉じようと抵抗していた両脚を無理やり開かれて、赤い肉棒がクラウドの中に侵入する。男が獣の様な唸り声を上げてクラウドの腰を掴んだ。
狭い肉壁を押し開いて、男のそれが性急に深奥まで突きたてられる。正体のない咆哮のような声をあげて、男がクラウドに覆いかぶさった。
「ふッんんっんー!んんッ」
「おァ、やべえこいつマジ、すげ」
言うか否か男が激しく腰を降り始めた。腰を掴まれて滅茶苦茶にゆすぶられ、クラウドの口から猿轡代わりの布が落ちる。
「…っふ…うあっやぁ!んぁっやだあ!やだ抜けよ!やあぁ!」
男が白い片口にむしゃぶりつく。クラウドが悲鳴をあげて背を弓なりにそった。男はもうクラウドの叫び声も聞いていない様子で一心不乱に腰を振っている。肉を皮膚に叩きつける湿った音が何度も繰り返して聞こえた。
「イクイク!イク!あー中でるッ出すぞ中で出すぞ!」
「ッ!だめぇ!なからめっ、ひぁっやぁぁッ」
「なンだよクラウドちゃん繁殖用の癖に中出し嫌とか、俺らが責任もってこれからも犯してやるのにさあ!」
クラウドが足をばたつかせて必死に男を遠ざけようと体を捩る。だが体は押し潰す様にがっちりと捕らえられ、身動き一つ出来ない。顔に生暖かいものをぶちまけられ、クラウドは咄嗟に目を開けた。
揺れる視界の中で理性を失った男達の顔がクラウドを見下ろしていた。何時のまにか両腕の拘束が自由になっており、コンクリートの床に付き立てた指の先が食い込み、爪が割れている。
自分が激しく嬌声を上げているのがわかるのに、スクリーンを通した様に何処か現実感がない。クラウドは、水の底に沈む様に意識が酩酊して行くのを感じていた。
「オラッ!孕め!孕め!」
一際大きな声をあげて男がクラウドの中に射精する。その瞬間、電流が走ったような衝撃がクラウドの脳裏を駆け抜けて、ぱっと散った。脚がびくびくと痙攣し、硬直している。
男が長い射精を終えて、やっとクラウドから体を引き剥がした。クラウドが自分の弛緩した下肢を見ると、腹は男の出したものだけでなく白く汚れていた。知らない間に吐精していたのだ。
自分の体の淫らさを嫌がおう無く突きつけられて、クラウドは泣き顔で目をそらした。代われ、代われと急いた声がして直ぐにまた別の男がクラウドの腰を掴むと、腰を持ち上げられうつ伏せにされ、また突き入れられる。
クラウドが最後の抵抗で逃げようと頭をもたげると、別の男がその頭を掴んでクラウドの口の中に自身をねじ込んだ。
「んぶっ、んん、んーッ」
口いっぱいにそれを差し入れられたままクラウドの頭が揺さぶられる。口笛と一緒に噛み切られっぞという笑い声がした。
「んなことねえって、見ろよこいつもう出来上がっちまってるだろ」
言いながら、男のものがクラウドの喉の奥を付く。中で果てられ、口を塞がれたまま無理やり出したものを飲み込まされる。引き抜かれて口にたまったものを吐き出そうとしたが、すぐ新しいものが口腔に入り込んで無駄に終わった。
顎が痺れて口を閉じられない。ぐっとえずいた喉の奥から吐瀉物がせりあがって来て、苦しさに溢れた涙がクラウドの頬を伝った。他の男が自分の体に性器を擦り付けて、肌の上を白濁した液で汚している。
代わる代わる後孔が擦り切れるまで犯され続け、体が弛緩して力が入らない。至る所に噛み付かれて血が滲んでいた。
ふと視線の端で、武器庫の半分開いた扉から差し込む月明かりが翳ったのが見えた。それから激しい怒気を含んだ大きな音を立てて扉が開き、こちらに駆けて来る足音がして、男達がぎょっとして侵入者の方を振り向いた。
揺れる黒髪と蒼い瞳が見えて、クラウドはそのまま眠る様に意識を手放した。
つづく(かもしれない)