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セブンズヘブンの隣の店舗は、大急ぎで住居に改装がなされていた。重機や槌を振るう音は既に消え、ピカピカの新築になっている。
新築の家には看板がかけられていて、『Delivery Service』の慇懃な文字が並んでいた。すぐとなりに寄り添いながらセブンズヘブンが建っている。
クラウドはバイクから降りると、座席のシートの後ろに座らせていたカダージュを振りかえって、手を伸ばした。伸ばしたが、抱きかかえようかどうしようか、判らない。
子守はデンゼルやマリンで慣れていて、ちゃんと痛くない抱っこの仕方だってわかる。
クラウドはこの目の前の銀髪の子供が、バイクに乗っている中クラウドの腰をぎゅっと握り締めていたのを思い出していた。
正直、小さな手で一生懸命にしがみついて来るのが可愛くて、何度も撫ぜ回りたくなったのは事実だ。もうかなり毒されているな、とクラウドは思った。
「降りろ」
やっとの事で両手を下げて握りこぶしを作ったクラウドは、カダージュに命令まがいの調子で言った。カダージュは、きょろきょろ自分のまたがっているシートの下を見て、
それからシートを掴んで大きく左下を覗き込んだ。まだ熱いマフラーの熱が収まらず、カダージュの頬は熱さで痛いくらいだ。
カダージュは、顔を上げてクラウドをじっと見つめて、マントから両手を出し、クラウドへ掲げると一言呟いた。
「だっこ」
クラウドはぎょっとした様子で、身を守る様に腕を前にしてあとずさった。それから顔が真っ赤に赤くなり、震える両手がカダージュをぎゅっと抱きしめた。
(成功、成功)
カダージュは上機嫌でその肩にしがみついて頬ずりした。クラウドは、なんだか蕩けた様な目つきで、なんにも言わずカダージュを抱いて、されるがままになっている。
クラウドはこういう風に、カダージュの甘えた仕草に反応せずには要られないのだ。これはセフィロスの力の応用で、カダージュは、その点だけはセフィロスに感謝していた。
抱きつきながら、兄のむき出しの肌に触れる。頬と頬をすり合わせ、後頭部の金髪を撫ぜる。クラウドが一瞬震えて、自然と熱い吐息を吐く。
カダージュは最後に、首筋に鼻先をくっつけて深呼吸して、クラウドの両肩に手をかけてにっこり微笑んだ。
「兄さん、おうちいこ」
「あ…っああ」
お家といっても、どちらの家に帰ればよいのだろう。大体、自分の奥様にどう説明すればようのやら、クラウドは思いつかなかった。
迷った末、クラウドはセブンズヘブンに帰る事にした。ティファはこの事をどう思うだろう。また昔のように子供を拾ってきて、きっといい顔をしてくれない。
クラウドは未来を杞憂してちょっとしょんぼりしながら、後ろめたさいっぱいでセブンズヘブンのドアを開けた。
「おかえりなさーい!!」
とたんにクラッカーの音がして、拍手や歓声が沸き起こった。クラウドは面食らって、ぽかんと口を開けっぱなしてしまった。
目の前に、家族がそろって立っていた。左後ろに銀髪の実の息子(何故銀髪かというと、概ねはジェノバの細胞のせいだ)がおり、その嫁と子供がいる。
右端にはもう大人になって精悍な顔つきをしたデンゼルと、マリンが並んでいた。
そして輪の中心にはティファがいて、にこにこ微笑みながらクラウドと、その弟、カダージュをセブンズヘブンに招こうと、両手を開いた姿をして優しげな雰囲気で立っていた。
「おかえり、クラウド。それから…カダージュ」
ティファがちょっと小首をかしげて、にっこり笑って言ったので、クラウドは目をそらして真っ赤になってしまった。どんなに年をとっても、ティファの笑顔は絶大に美しい。
カダージュはきょとんとして、ティファをまじまじと見つめて、それから驚いた顔のまま、クラウドに、綺麗な女の人だねと耳打ちした。
ティファはちょっと恥ずかしそうにすると、息子の方を見た。
「話はリーブさんから聞いてる」
ティファの視線を受け取って、エプロン姿の息子が言葉を続けた。向こうの二世帯住宅には、通路から繋がっており、セブンズヘブンと行き来できて、
もうクラウドの荷物と、事務所、それからカダージュの真新しい寝具や家具などが運び込まれているという。
「ティファ」
クラウドは心配そうな顔でティファを見た。こうやって帰って来た事をお祝いしてくれているが、彼女の中でどんなにか葛藤があっただろう。
息子がティファの肩に手を置いてクラウドへウィンクした。どうやら、二人で今後について話し合い、クラウドとカダージュの事は丸く収まった様子だった。
知らない所で自分の抱えた問題の糸をほぐされて、クラウドは何だか感激して、涙が出そうだった。
実際、顔つきは無表情だったが、それでも彼の相貌の僅かな変化を読み取れる家族には、クラウドが安心した事が伝わった様だった。
クラウドのその姿を見て、マリンとティファと嫁が、早速カダージュの傍によって顔を近づけた。
カダージュは人見知りらしい仕草で、クラウドの服を引っ張って顔を隠していたが、その表情は恥ずかしそうに笑っていた。
孫の子供達がカダージュに駆け寄って挨拶する。カダージュも手を振った。ティファはカダージュにお腹かがすいてないかたずねている。
「さあさあ、行ってみて、クラウド」
デンゼルが繋がった通路まで行き、ドアをあけたので、全員がそちらを向いた。
子供達が走り出して、カダージュがクラウドの腕の中からずり落ちるように離れて行き、子供達と混じって走って行った。
クラウドとカダージュ、それから家族全員は、物珍しそうな顔をしながら、新居に入っていった