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小説置き場

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いっしょにくらそう2

2
セブンズヘブンの隣の店舗は、大急ぎで住居に改装がなされていた。重機や槌を振るう音は既に消え、ピカピカの新築になっている。
新築の家には看板がかけられていて、『Delivery Service』の慇懃な文字が並んでいた。すぐとなりに寄り添いながらセブンズヘブンが建っている。
クラウドはバイクから降りると、座席のシートの後ろに座らせていたカダージュを振りかえって、手を伸ばした。伸ばしたが、抱きかかえようかどうしようか、判らない。
子守はデンゼルやマリンで慣れていて、ちゃんと痛くない抱っこの仕方だってわかる。
クラウドはこの目の前の銀髪の子供が、バイクに乗っている中クラウドの腰をぎゅっと握り締めていたのを思い出していた。
正直、小さな手で一生懸命にしがみついて来るのが可愛くて、何度も撫ぜ回りたくなったのは事実だ。もうかなり毒されているな、とクラウドは思った。
「降りろ」
やっとの事で両手を下げて握りこぶしを作ったクラウドは、カダージュに命令まがいの調子で言った。カダージュは、きょろきょろ自分のまたがっているシートの下を見て、
それからシートを掴んで大きく左下を覗き込んだ。まだ熱いマフラーの熱が収まらず、カダージュの頬は熱さで痛いくらいだ。
カダージュは、顔を上げてクラウドをじっと見つめて、マントから両手を出し、クラウドへ掲げると一言呟いた。
「だっこ」
クラウドはぎょっとした様子で、身を守る様に腕を前にしてあとずさった。それから顔が真っ赤に赤くなり、震える両手がカダージュをぎゅっと抱きしめた。
(成功、成功)
カダージュは上機嫌でその肩にしがみついて頬ずりした。クラウドは、なんだか蕩けた様な目つきで、なんにも言わずカダージュを抱いて、されるがままになっている。
クラウドはこういう風に、カダージュの甘えた仕草に反応せずには要られないのだ。これはセフィロスの力の応用で、カダージュは、その点だけはセフィロスに感謝していた。
抱きつきながら、兄のむき出しの肌に触れる。頬と頬をすり合わせ、後頭部の金髪を撫ぜる。クラウドが一瞬震えて、自然と熱い吐息を吐く。
カダージュは最後に、首筋に鼻先をくっつけて深呼吸して、クラウドの両肩に手をかけてにっこり微笑んだ。
「兄さん、おうちいこ」
「あ…っああ」
お家といっても、どちらの家に帰ればよいのだろう。大体、自分の奥様にどう説明すればようのやら、クラウドは思いつかなかった。
迷った末、クラウドはセブンズヘブンに帰る事にした。ティファはこの事をどう思うだろう。また昔のように子供を拾ってきて、きっといい顔をしてくれない。
クラウドは未来を杞憂してちょっとしょんぼりしながら、後ろめたさいっぱいでセブンズヘブンのドアを開けた。
「おかえりなさーい!!」
とたんにクラッカーの音がして、拍手や歓声が沸き起こった。クラウドは面食らって、ぽかんと口を開けっぱなしてしまった。
目の前に、家族がそろって立っていた。左後ろに銀髪の実の息子(何故銀髪かというと、概ねはジェノバの細胞のせいだ)がおり、その嫁と子供がいる。
右端にはもう大人になって精悍な顔つきをしたデンゼルと、マリンが並んでいた。
そして輪の中心にはティファがいて、にこにこ微笑みながらクラウドと、その弟、カダージュをセブンズヘブンに招こうと、両手を開いた姿をして優しげな雰囲気で立っていた。
「おかえり、クラウド。それから…カダージュ」
ティファがちょっと小首をかしげて、にっこり笑って言ったので、クラウドは目をそらして真っ赤になってしまった。どんなに年をとっても、ティファの笑顔は絶大に美しい。
カダージュはきょとんとして、ティファをまじまじと見つめて、それから驚いた顔のまま、クラウドに、綺麗な女の人だねと耳打ちした。
ティファはちょっと恥ずかしそうにすると、息子の方を見た。
「話はリーブさんから聞いてる」
ティファの視線を受け取って、エプロン姿の息子が言葉を続けた。向こうの二世帯住宅には、通路から繋がっており、セブンズヘブンと行き来できて、
もうクラウドの荷物と、事務所、それからカダージュの真新しい寝具や家具などが運び込まれているという。
「ティファ」
クラウドは心配そうな顔でティファを見た。こうやって帰って来た事をお祝いしてくれているが、彼女の中でどんなにか葛藤があっただろう。
息子がティファの肩に手を置いてクラウドへウィンクした。どうやら、二人で今後について話し合い、クラウドとカダージュの事は丸く収まった様子だった。
知らない所で自分の抱えた問題の糸をほぐされて、クラウドは何だか感激して、涙が出そうだった。
実際、顔つきは無表情だったが、それでも彼の相貌の僅かな変化を読み取れる家族には、クラウドが安心した事が伝わった様だった。
クラウドのその姿を見て、マリンとティファと嫁が、早速カダージュの傍によって顔を近づけた。
カダージュは人見知りらしい仕草で、クラウドの服を引っ張って顔を隠していたが、その表情は恥ずかしそうに笑っていた。
孫の子供達がカダージュに駆け寄って挨拶する。カダージュも手を振った。ティファはカダージュにお腹かがすいてないかたずねている。
「さあさあ、行ってみて、クラウド」
デンゼルが繋がった通路まで行き、ドアをあけたので、全員がそちらを向いた。
子供達が走り出して、カダージュがクラウドの腕の中からずり落ちるように離れて行き、子供達と混じって走って行った。
クラウドとカダージュ、それから家族全員は、物珍しそうな顔をしながら、新居に入っていった

いっしょに暮らそう1

「また突然、弟だと名乗る青年が三人現れて、貴方を襲撃したらどうします?」
「嫌だ、とにかく駄目だ。断る」
「クラウドさん」
リーブは首を振ってテーブルの向かい側に座っているクラウドを制した。クラウドはそわそわと落ち着きがなく、腰を浮かせて今にも逃げ出しそうだ。
そわそわの原因は、目の前にあった。リーブのすぐ横隣、ソファの上に、銀髪の少年が座っている。原因はこの子供だった。
年のころは10才くらいで、黒いマントを羽織っている。彼の名前はクラウドも知っていた。以前、街の子供達の命を賭け、“ジェノバの首”を争って戦った、“弟達”の一人、カダージュだ。
どうしてここにいるのか、なぜ小さくなっているのか、クラウドは知りたくなかった。正直、リーブに呼び出され、この部屋に通され、カダージュを一目見た瞬間、あっしには関わりのねぇことでござんす、と、ケツを…いやエプロンをまくって逃げ出してしまおうとしたが、ドアを打ち破って帰ろうとした向こうで、ちゃっかり控えていたルードとレノに両脇を捕らえられ、そのまま引きずられてソファに座らされてしまった。人目もはばからずこういう情けない醜態を晒しても、クラウドは星一番の豪傑であり、本当ならめちゃくちゃに抵抗すれば逃げ出せたのだが、カダージュの「兄さん逃げないで!」という一言に、何故か硬直してしまって、固まったまま向かい合わされたのである。
その瞬間を待っていたのかリーブは堰を切った様に状況を説明しはじめた。
「クラウドさんお気づきだと思いますが、この子はあの、カダージュくんです。そしてロッズくんでもありヤズーくんでもあります。
簡単にご説明すると貴方に会いたくて星から帰ってきたそうです。彼らは三つ身の体と三つの精神を行き来しています。彼らを貴方に預けようと思いましてお呼びしたしだいです」
リーブが、誰も反論できず口を挟む隙もないほど簡潔に状況を説明したので、クラウドは耳をふさぐ暇もなかった。
カダージュは、長い前髪をピンで留めて、さっぱりした両眼を覗かせている。その目は邪気もなく、クラウドを一身に見つめていた。
「兄さん」
「呼ぶな」
少年の問いかけに、クラウドはにべもなく即答した。カダージュはまったく子供の様で、泣きそうな顔をして下を向いた。クラウドは、その姿に眩暈を覚えて、額を抱えた。眩暈はあまやかな、暖かい感情を伴って、クラウドの内側から湧き出してくる。
洗脳だ。どうしてそんな事をするのか、クラウドには判らないが、カダージュは兄を“呼ぶ”事で、“兄自身の庇護欲”つまりクラウドが、カダージュを可愛いと思う心を、引き出せるようだ。
「どうして?僕らこの世で二人だけの兄弟なのに」
「どうして?俺が聞きたい」
クラウドは、指を組み、膝の上に肘をのせてカダージュをにらんだ。にらまれて、カダージュは、情けないほど萎縮している。クラウドはにらむのを止めて肩をすくめた。
これでは年下の子供に無体を働く大人だ。カダージュは、クラウドが自分に怒りを向けるのを止めたのを了承ととったのか、ゆっくり話し出した。
「あのね、ここへ来れたのはね、エアリス母さんか許してくれたからなんだ。僕ね、僕」
カダージュは、言葉を切ってクラウドを見つめた。クラウドは、視線に耐え切れず、そのまなざしに引っ張られるように目を合わせた。
「あの時、僕を…抱きしめてくれた兄さんを忘れられなくて」
あの時、とは、彼の体からセフィロスが去り、カダージュが中空に放り出された時の事だろう。あの時クラウドは、どうしてだか、カダージュに駆け寄って、彼を抱きしめたのだ。
「ロッズも、ヤズーもそう」
その時初めて、カダージュはクラウドを、本当の兄だと思った。傷ついた体で、それでもしっかりと自分を支えてくれる優しい手。敵意は無く、ただ、クラウドの優しさに包まれていたあの瞬間。
カダージュの思考は、つながったヤズーとロッズに伝わり、彼らはクラウドが一緒に、“星へ還る”事を望んだのだ。
伸ばした手クラウドに届かなかったが、今なら手を握る事ができる。カダージュも、他の二人も、もっとクラウドについて知りたかった。
『それは、セフィロスを、沈静化させる、事。それにも、繋がると思う』
エアリスは三人に言って聞かせた。どうあがいても、否定しても、やっぱり三人はセフィロスの分身で、セフィロス自身とも言えた。
三人の状態から見れば、セフィロスは、クラウドを恋しがっている。それも、悲観的な意味でなく、楽観的で、とても暖かい意味で。その気持ちは、星を蝕むジェノバを調伏するのにも使えるだろう。
それに現実世界は、ライフストリームという場所と違い、偏った情報よりも、より多くの多角的情報を取り入れられる。三人は、ここにいるより現実に行くほうが何倍もいい。
ちょうど彼らには固定した肉体というものがなく、自由にライフストリームと現実を行き来できるのだから。
毒気は抜いた。本人達にも攻撃性を思わせる思考はかんじられない。エアリスは、太鼓判を押して三人をライフストリームから現実世界に送り込んだのだ。
「で、住む場所ですが…セブンズヘブンなど候補に…」
リーブが押し切ろうと言葉を挟んだので、クラウドは慌てて言った。
「に、二世帯住宅にしてくれ!」

王子様と薔薇(仮)

薔薇は泣いていた。
硝子の覆いをかけられた薔薇の周りには、薔薇の凍った涙が宝石の様に散りばめられ、うず高く積って、覆いの縁から溢れだしている。
薔薇の名前はクラウド、と言った。ヤズーは泣いているクラウドを横目で眺めてため息をついた。
クラウドが泣いているのは、この星の王様、ではなく…王様は母のジェノバなのだから王子様といった方が正しいかもしれない…セフィロスのせいだった。
セフィロスにクラウドが敗北したのは、セフィロス再臨の折だった。クラウドがセフィロスに負ける。それは星の死を意味していた。
クラウドの眼の前で、緑のライフストリームが押しつぶされ、黒いライフストリームが地表を覆い、生きとし生ける動物、その肺に息の通うものはすべて死に絶えていった。
三人の兄弟に抑えつけられながら、クラウドは絶望に染まった表情でそれを見ていた。傍を飛んでいた飛空挺が、空を這う黒いライフストリームに飲まれた時、
セフィロスは微笑みながら、地面にひれ伏していたクラウドを引きずり立たせ、彼を抱きしめその光景をつぶさに見せた。その時、クラウドは大粒の涙を流して泣き始めた。
それからずっと、クラウドは泣いている。喚き散らすでもなく、暴れるでもなく、ただ泣いていた。星はどんどんその命を黒い精神エネルギーに変えて行き、セフィロスは念願かなって、
星を船に宇宙へ行くことにした。もちろん、セフィロスから生まれた三人の兄弟カダ―ジュ、ロッズ、ヤズ―も一緒だ。
セフィロスは、ガラスの覆いの形をした結界を、クラウドの周りに張り巡らせて、彼を傍に置いていた。
結界は堅牢で、クラウドはそこから出られない様子だった。いくらセフィロスと互角に戦うとはいえ、クラウドは普通の人間だ。
セフィロス達より大気の変化や気圧の上がり下がりに弱いので、己ずと外へは出られはしない。自死を選ばない様に、彼の両手両足には黒い鎖が巻きつけてあった。
「これのおかげで、私は散々さ苦労もさせられたが、これが居なければやはりこの計画の成功も無かっただろう」
セフィロスはそう言って、壊れ物にでもする様に優しくガラスの牢獄を撫ぜた。まるで、薔薇を大切にするみたいだと、ヤズ―は思った。星の王子様と、薔薇。どこかで聞いた事のある話だ。
ヤズ―は本が好きで、人間が死滅してからというもの、残った図書館や本屋を巡るのが趣味になっていた。確か昔読んだ本の中にその一節があった気がする。
「薔薇か」
ヤズ―がそう伝えると、セフィロスが独り言の様にそう言って含み笑いした。「確かにこれに薔薇を渡した事がある」とセフィロスは言った。
それがいつどこでの事だったか思い出せもしない遠い昔の話だ。その時、薔薇はクラウドの中に吸い込まれて消えたという。
「これを薔薇と呼ぼう。唯一私を困らせ、手を焼かせる、憎らしい、私のいい子」
セフィロスは上機嫌で、「お前達は子羊だな」と言った。星を操り、神の様になったセフィロスは、星の中を探索しヤズ―の言っていた本の情報を手に入れたらしい。
この地上の人間を裏切り者と呼びながら、彼らが作り上げた文学について、セフィロスはそれほど嫌っていない様に見えた。ヤズ―が本を好むのも、この辺りの嗜好から来ているのかもしれない。
セフィロスは結界に手を触れると、カーテンの様にそれを開き、クラウドに歩み寄って俯いて泣いている彼を上向かせた。クラウドは抵抗しなかった。最初は嫌がったが、もう最近では声も上げない。
身に着けていた衣服をはぎとられ、クラウドは裸のままセフィロスに組み敷かれた。時折、セフィロスはこういう風にして、クラウドに酷く凌辱を加えるのを好んでいた。
クラウドの涙が、頬から滴って宙に浮いた。それらは瞬時に凍りつき、結界の端に当たって鈴のような高い音をたてて散らばった。
ヤズ―は目をそらさずそれをぼうっと眺めていた。見られるのが嫌なのか、クラウドが両腕で自分の顔を隠す。綺麗だなと、ふとヤズ―は思った。
それから何十年かが経っても、船は生命の力を豊富に持った星を探し銀河の闇を流れていた。クラウドは、幻体であるヤズ―達と違って人間だったが、ちっとも年を取らずに結界の中に閉じ込められていた。
セフィロスの話では、純一なセフィロスの…つまり純粋なジェノバの血を受け継いだ証拠だという。ただ、クラウドが涙を流し続けるのも変わらなかった。
悲しい出来事はもう光陰の向こうへ去ってしまったのに、まだ彼は泣き続けている。それはもう、誰かへの強い抗議か、なんだか祈りの姿にすら見えた。
カダ―ジュが結界の傍まで近寄って指でガラスを弾いた。振りむいたクラウドの涙粒が、ふわりと浮かびそのままガラスを通り抜けて、カダ―ジュの方へ流れていく。カダ―ジュはそれを素早く捕まえ、掌に収めると、
そのままそれを美味しそうに飲み込んだ。元より上手い不味いはわからないが、堅くて冷たい涙の粒は、カダ―ジュの喉を転げて潤してくれる。カダ―ジュはそれが好きだった。
「兄さん」
カダ―ジュはクラウドに優しく笑いかけた。クラウドは泣き顔でカダ―ジュを見つめている。涙を流し続けて、粉の吹いた頬。真っ赤になった目、絶望に染まったまま、動かない、蒼白の顔はそれでもなお美しく見えた。
「何故泣いてるの?」
クラウドは首を振って、答えなかった。その代り、カダ―ジュに向かって両手を差しのべた。カダ―ジュは首を傾げながら、透き通ったガラスをすり抜けてその手をとった。
兄の顔が間近に迫り、カダ―ジュは息を殺してその瞳と見つめあった。クラウドはゆっくりとカダ―ジュを引き寄せ、その唇に唇を合わせ、すぐに離した。
カダ―ジュは嬉しくなって、ねだる様にもう一度唇を合わせようとしたが、兄は両手でカダ―ジュをさえぎって、その胸に額をあずけてまた泣き始めた。
「そう」
突然カダ―ジュに落雷の様なひらめきが芽生え、兄の泣き止まない理由がはっきりと解った。同時に、ある感情も巻き起こった。これは嫉妬だ。とカダ―ジュは思った。
「そうなんだね、兄さん」
カダ―ジュは兄から身を離し、硝子の覆いから抜け出し、独りセフィロスを探して歩きだした。
セフィロスはすぐ見つかった。彼は影向し、崖の上に立って、退屈そうに星の黒い地面を眺めている最中だった。カダ―ジュが手を振ると、彼は瞬時にその眼の前に現れた。
「あれが泣く理由がわかったようだな」
「そうだね」
カダ―ジュは返事をして、しまった。と思った。それから大急ぎで自分の思考を閉じると、厳重に鍵をかけた。カダ―ジュ達はセフィロスの幻体だ。セフィロスが求めればすぐ思考が伝播する。でもそれも、ロックがかかっていない時だけだ。
長い旅の間、幻体のカダ―ジュ達も、自分の意思と肉体を、ある程度自分で動かす事が出来るようになっていた。彼らは本物の自我を持つようになったのだ。
セフィロスはカダ―ジュの思考が読めない事をいぶかしがり、怪訝な顔つきでカダ―ジュを見つめた。
「答えを伝えに来たのではなかったのか。なぜ意思を明け渡さない」
「さあ?自分に聞くと良い」
カダ―ジュはにやりと笑ってセフィロスに答えた。本当に自分に聞けばいいのだ。そもそもセフィロスがクラウドをずっと閉じ込めておく理由は、もうとうにわかっている事だ。
クラウドにセフィロスが触れる時、幻体のカダ―ジュ達が感じる悦び。それこそが答えだった。そして、クラウドからの口付けは、それに対する返事だ。
セフィロスは怪訝な表情をとったまま、再びカダ―ジュの前から姿を消した。神様もどきにもわからない事ってあるんだな、とカダ―ジュはため息をついた。



「泣きやめ」
とセフィロスは言った。クラウドは俯いたまま、セフィロスの事は眼中にない様子でうなだれている。
「何故泣きやまない」
そのままつかつかと歩み寄ると、セフィロスは、靴先でクラウドの肩を軽く蹴った。クラウドは転がされて、仰向けに倒れ込んだ。セフィロスは、自分でも正体のわからない苛立ちを覚えて、クラウドの上に馬乗りになると彼の頬を擦ると涙を無理やり拭った。
「泣くな」
何度言っても、クラウドは泣きやまなかった。口も利かず、瞼を堅く閉じて、涙を流し続けている。業を煮やしたセフィロスは、立ち上がってクラウドの腕をとりながら「何故言う事を聞けない」と呟いた。
「どうやら仕置きが必要だ。良い子になるまで迎えには来ない」
セフィロスはむっつりとした顔のまま、クラウドに向かってゆっくりとそう宣言した。言う事を利かない悪い子も、一度お仕置きをしたら素直になるだろう。例えば、何もない惑星に置き去りにすると言う様な事をすれば。
今や結界になった硝子の覆いと一緒にクラウドを引きずって、セフィロスは見晴らしの良い丘に立った。星船の眼下には、丸くて青い惑星が見える。
セフィロスが腕を振るうと、硝子の覆いは丸くなり、跳ねる様に浮き上がった。
今まで俯いていたクラウドが、ふいに顔を上げる。二人の視線が絡まりあい、クラウドは、もう何百年も言葉を作らなかった口を開けて、掠れた声で囁いた。
「…もう」
クラウドが球の内側に手をついて、セフィロスを見た。もうその目は泣いておらず、うらめしげでもなかった。
「それはもう、俺はあんたが…」
セフィロスはクラウドを見上げて瞬きをした。クラウドは、恥ずかしそうに目をそらしてまた呟いた。
「好きだったんだ」
言い終わると、クラウドはもう顔を伏せたまま、うなだれてため息をついた。セフィロスはちょっと驚いた顔をしてクラウドをまじまじと見つめた。
「でもそれをあんたが知らなかったのは、俺が悪かったんだ。でも、俺はもう行くから、そんな事どうでもよくなる」
セフィロスは球を手元に戻そうと手を差し伸べた。だが、球は言う事を聞かず、どんどん離れて行く。いつのまにか球は、緑色のまばゆい流れに包まれていた。
緑のライフストリームだ。まだ残っていたのだ。
「俺もそうだったけど、あんたもやっぱりお馬鹿さんだったのさ」
クラウドが俯いた顔を上げて、セフィロスを見つめる。瞳が揺れて、本当にそう願い、絞り出すように言葉を告げた。
「幸せにな、セフィロス」
クラウドはそのまま、眼前の星に向かって落ちていった。


つづく


バックラ人魚姫パロ3

入り江の洞窟での暮らしは暫く続いた。
持ってきた役立たずの樽の中には、少しばかりのギルと、水のたっぷり入った水筒、ミスリルナイフ、ポーション、干し肉、リンゴのヌガーと、蝋燭、水で壊れたテント、それから濡れて使えなくなったひそひそ草が納まっていた。ひそひそ草は外国のもので、結構珍しい。
この樽の本来の持ち主は、リックスからこっそり逃げ出す算段でもしていたのかもしれない。バッツは砂浜から土を取って、ひそひそ草を乾いた場所に植えてみた。通信は出来ないが、レーダー代わりくらいにはなるかもしれない。
どの位流されたか正確には計算できないが、兎に角、あまりじたばたしてもはじまらない。バッツが海へ漕ぎ出していけそうな木材と言ったら樽と、後ろに生えた生木だけで、切れるものと言ったらミスリルナイフ一つっきりだ。バッツは既にジョブマスターだが、武器がなければ技は正確に使えない。
周りを見渡しても、イカダにするには木材が少なすぎる。乾いた木材は火起こし用にとって置いた方がいい。
リックスでは今頃、バッツが居なくなって大騒ぎだろう。バッツには海を知り尽くした心強い友もいる。その子が、今彼を探しているに違いなかった。病身の父も心配だ。木に負けるのは、昔の冒険を思い出して何だかちょっと嫌だったが、無闇に海へ出て行くより座して待つ方が早く帰れそうだ。
それにあの人魚…クラウドが、逐一界や魚を届けてくれるので、存外食うのにも生活するのにも困らなかった。
(しっかしこの入り江…)
バッツは木の枝に結わえ付けたテントの下で嘆息した。これで結構暮らしやすい。日当たりも良く、風通しもいい。寝転がるテントをしつらえて、樽を机に干し肉齧ってればちょっとした隠れ家にいる気分だ。
そんな気分で食事していると、クラウドが不思議そうに干し肉をみていたので、試しにご相伴してもらう事にした。バッツは浅瀬まで下っていって、岩の上に座っているクラウドの前に肉の欠片を差し出した。
「食ってみる?」
クラウドはちょっと眉を顰めて、少しの逡巡の後、それを両手にとって一口齧った。目が泳いで、口がもぐもぐ動く。切れ端を噛んでのみ込んだ彼は、めをしばたたかせて一声「キュウ」と呟いた。
顔つきを見るに結構美味しかったらしい。予想してたけど、人魚って結構肉食だ。彼は残りを少しずつ口に運んでいる。バッツは頷いて、クラウドの横に腰を下ろした。
クラウドはちょっとびっくりした様だったが、そのまま逃げようとはしなかった。二人は並んで、ちょっとの間一緒に食事をした。すっかり元通り綺麗になった尾びれが、足元でゆらゆら揺れている。
それを見て、バッツは少し華やいだ気分になった。日の光に照らされて、鱗がキラキラ輝いている。綺麗だった。置かれている状況は悪かったが、旅は道連れだ。連れが居ると心和んだ。
もう彼は3日程ここにいた。普通なら本当に救助が来るのかちょっと不安になってくる時期だが、クラウドがいてくれてお陰で、バッツは結構のほほんとしている事が出来た。
「そうだ」
バッツはズボンのポケットを探って、そこから光る物を取り出した。それは碧い宝石のついた、金縁の指輪だった。自分用に持っていた物だ。食事をし終えたクラウドが、何をするのか横目でバッツを見つめている。バッツはにっこり笑ってクラウドの手を取ると、その薬指に指輪をはめた。
「守りの指輪。持ってけよ」
クラウドは顎を上げると、口をへの字に曲げた。それから今度は俯いて、手を眼前に持ってくると困った様子で指輪とバッツを交互に見つめる。反対側の指先が伸びて、指輪を外そうとする。
「おおっと、つけとけよって、いいから。一番良いアクセサリなんだ、これ」
バッツは慌ててそれを推し留めると、自分を指差して、両手で指輪のついたクラウドの手を握った。目を合わせて、これはお前にあげたんだ、と訴え掛ける。
見すくめられて、クラウドはしどろもどろに視線をそらした。それから、ぷいっとそっぽを向く。金髪の間から見える耳が少し赤い。
(あれ…照れた?)
バッツは口元に手を当てた。にやにや唇が吊りあがる。この人魚、笑わないし、あんなり表情ないから、そういう生き物だと思っていたけど、どうやらそれはクラウド自身の問題だったらしい。
(意外と可愛い所あるんだなあ)
クラウドは、バッツの手を振りほどくと、ちらりと彼を一瞥して、ぶっきら棒に何事か呟いた。ありがとう、とでも言っているのだろうか。バッツは何だかドキドキして、自分まで小声で「どういたしまして」と言った。
その日の夜は更けて、とっぷりと日が暮れた。暫くその水辺でぶらぶらしていたクラウドは、一度水面から顔を上げると、バッツに向かってちょっと手を振った。“見張りに行く”合図だ。
クラウドは夜目が利くらしく、真夜中になると出かけて行って、外敵が近寄らない様に入り江の周りを見張ってくれている。
誰が頼んだ訳でもないが、結構勇敢なタチらしい。良く見ると体にも引き締まった筋肉がついていて、戦士なのかも知れなかった。そうなると、夜の海で溺れていたのは何故だろう。
そもそもあんなに傷だらけだったのはちょっとおかしい。“彼”なのか“彼女”のどっちなのだろうか。“彼”っぽいから、彼と呼ぶが、それでも疑問ばかりわいてくる。バッツは篝火に焚いていた火を消すと、横になって、じっと洞窟の入り口を見つめた。
入り口には、クラウドがいた。彼の髪が、月明かりを反射して、水面うつる。まるで金色の光が踊っている様だ。バッツは、水面に映ったその光を瞼の裏にしまい込んで、マントに包まり浅い眠りに落ちていった。
目が覚めると、既に空が白んでいた。洞穴の上に開いた穴から、日が昇ろうとしているのが見えた。明け方だ。バッツは半身を起こして浅瀬を見た。クラウドが帰って来ている。
彼は砂浜に横たわり眠っていた。バッツはちょっと考えて、立ち上がると、そっと彼の元まで歩み寄って、その直ぐ傍にしゃがんだ。クラウドは良く眠っている様子で、目覚める気配はない。
バッツは黙って彼をじっと観察した。ちょっと鱗が剥げていたので、モンスターか何かと小戦あったみたいだ。なにも毎晩見張らなくていいのに、彼はこうやって、バッツの眠りを守ろうとしてくれている。
(律儀だなあ)
交代するとか、伝えられたら良いのに。というか離れず居てくれるだけでも良かったのだ。遭難者は、それで十分助かる。勿論頼んだ訳で無し、止める由もない。
(どうしてこんなにしてくれるんだろう)
バッツは頬杖をついてクラウドの顔を見つめた。閉じた瞼に金の睫毛が見える。人魚にも、人間と同じように睫毛があるみたいだ。筋の通った、小さな鼻梁、唇、細い輪郭、細い首、白い肩、その先の腕。上半身は人間と変わらない。
(下って魚と同じなのかな)
首を擡げて、バッツはクラウドの腰から下を見た。揺れる水面に浸かっていて、どうも良くわからない。腕をまくり、手を伸ばして触れてみる。撫でる鱗は繊細で暖かい。
「ふむ」
少し思案した後、バッツは身を乗り出して、指先をクラウドの腰の裏へ進めた。人と同じ尾てい骨がある。クラウドがくすぐったそうに身動ぎした。
「ん」
その先に触れた途端、ぱっちりと開いた蒼い瞳と目が合った。
「あっ」
まだぼんやり夢の中にいる様子のクラウドの視点が、ゆっくりと定まってバッツを見た。それから体の後ろへ首を捻る。彼の喉がごろごろ唸って鳴った。
バッツはそっと手を放して、拳銃を突きつけられでもした様に肩まで掲げた。気まずい。触ってしまいました。お尻。
視線を戻したクラウドは、眉根を寄せて、何してるんだコイツ、妙な所を何故触る。という様な視線をバッツに投げかけている。何されたか解っていないのか、寝ぼけているのか、どっちだろう。
「あーあの、触っちゃった、お…」
バッツが言いかけた時、クラウドが、急に手をついて半身を起こした。
クラウドが、耳をそばだてて辺りを見渡す。バッツは遠くから、波をかき分けて船の近づいてくる音を聞いた。
船の先頭が洞窟の外にぬっと姿を現す。甲板に、髭を蓄えた初老の男と、男物の服を身に着けた女性が立っていた。バッツは眩しそうに目を細めた。
それから、その二人が友達で、救助が来たのだと解ると、目を輝かせて二人の名前を呼んだ。
「ガラフ!ファリス!」
「おおーい!バッツ無事か!」
老人が手を振る。バッツも立ち上がってニ、三歩歩み出ると、笑顔で手を振り替えした。
「クラウド、あれが俺の仲間…」
バッツは振り帰ってクラウドを呼ぼうとした。
そこには、誰も居ない砂浜が広がっていた。
4へ続く

        
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